最近、四十年という長いトンネルを抜けて、めでたく童貞を喪失した。
四十歳の誕生日を迎えた日、もう童貞を捨てるのは無理だろうと思った。三十代のころはこのままでいいのだろうかと将来不安を感じてはいたものの、そのうち彼女ができるだろうだろうと希望を捨てなかった。だが四十歳という立派な中年になったとき、その希望の光が消えつつあるのを知る。ここまで来るともう将来不安はない。あるのは後悔だけだ。
―もうだめだろうな。俺はついにセックスせずに死ぬのか。一生自慰して終わるのか―
こじらせ男子、という表現を四十歳の男に使うのはいささか気色悪いが、かなり卑屈になったのは事実だ。
そんな折、七歳年下の弟と酒を飲んで結婚の話になったとき、こんなことを言われた。
「今から彼女作る気ない?」
弟は既婚者なだけに会うたびに兄を案ずる。このまま未婚じゃ寂しすぎると言う。
「出会い系に登録してみたら?」
弟は「出会い系」という言葉を初めて口にした。
「出会い系ってさ、結構危ない世界だってイメージがあったけど、実際は安全らしいよ。女性会員数も多いし、チャレンジしてみたら? まだ四十なんだしさ」
「登録したって出会える保証はないだろう」
「何もせずにじっとしているよりいいよ」
半信半疑のまま出会い系に登録し、二週間ほどで、地元宇治市に住む三十歳の独身女性と出会った。
「不倫希望の男性だと思いましたけど、独身なんですね」
「若い男でなくてごめん。イケメンでもないし」
「でも誠実そうだし、いい感じですよ」
彼女は肉感的な女性だったが決して美人ではない。だが俺にそんな贅沢は言えない。付き合ってくれる女性が現れただけでも幸運と思わなければならない。俺は誠心誠意彼女に尽くした。絶対に嫌われてはならないと思った。その思いが通じたか、三回目のデートでキスが許され、その次のデートでラブホテルに入り、ついに童貞喪失の時が訪れる。
だが上手にセックスしようという焦りが逆効果となり、無様なセックスに終わった。挿入した瞬間に射精した俺の顔をじっと見て、彼女がこう言う。
「もしかして初めてなんですか? そんなわけないですよね。四十歳ですもんね」
その指摘にとっさにこう答えた。
「君が魅力的すぎるからこんなことになった。悪いのは君だ。君の美しさと色っぽさに、俺はまともなセックスができなかった」
「またもう・・・! そんなこと言われると舞い上がっちゃうわ」
はしゃぎながら胸の上に乗ってくる。目の上で乳が揺れている。俺はその柔らかいものを揉んだ。射精直後なのに興奮して体勢を入れ替え、脚を開いて陰部を舐めた。
―俺はもう童貞じゃない―
長いトンネルだった。
今はただ感無量。
童貞の中年男子諸君、君たちにひとこと言いたいことがある。
あきらめるな。