気がついたら童貞を卒業していた話をしよう。童貞なんてあっという間になくなるもんだと思った。童貞でいることに悩んでいたのが嘘みたいだ。
25歳になって童貞でいることが、とても窮屈だった。周囲の同世代の男はみな経験済み。
「昨日抱いた女はよかった」などと自慢げに話す。俺だけが童貞で、周囲から孤立していた。
この悩み、誰かに聞いてほしい。そして励ましてほしい。
「童貞でいてもぜんぜん問題ないからね。元気出してね」
この一言を誰かにいってほしい。
ある日、友人に誘われて飲みに行った。時間に遅れて店に入ると、彼の横に中年女性が座っていた。
「偶然そこで会ったんだ。この女性、新しい俺の彼女」
女性関係が派手な彼は、老若にこだわらず彼女にする。彼女は見たところ四十路。色気たっぷりの熟女だ。俺の顔をちらりと見ると、白い歯を見せて
「はじめまして。こんばんは」
と斜めに頭を下げた。
彼女の名前は美由紀さん。出会い系で見つけた女性らしい。人妻か独身か知らないが、彼とはすでに深い関係になっているようだった。彼はどんな女性でも手玉にする。童貞の俺とは住む世界が違う。
彼がトイレに立ったら美由紀さんがとなりの席に移ってきて、話しかけてきた。穏やかで包容力のありそうな女性だった。俺、そのとき思ったよ。美由紀さんに心のうちを聞いてほしいと。こんなこと親にも友人にもいえない。見ず知らずの美由紀さんであれば打ち明けられるだろうと。
「じつは、美由紀さんに聞いてほしいことがあるんです」
「なあに」
サザエの壺焼きに箸をつっこむ美由紀さん。
「ここではいえません」
「面白い人ね」
彼がトイレから戻った。話はそれ以上できなかった。店を出るとき、美由紀さんが紙切れを俺に渡した。携帯のメアドが書いてあった。そして耳打ちする。
「とりあえず空送信して」
その夜、空送信したら、10分くらいして返事が来た。
「どっかで会おうか、お話聞いてあげる」
「二人で会うなんて、彼に悪い」
「どうせセフレだから関係ない。私が誰と会おうと私の自由よ」
翌日、守山市内のコーヒーショップで会った。
熟女の色気はさらに増していた気がする。二人きりになったからなおのことそう思えるのだろうか。白い肌、胸の膨らみ、肉感のある太股。彼女の魅力が、如実に目に迫る。
俺、自分が童貞だと打ち明け、それで悩んでいると伝えた。童貞でいても何ら恥じることはない、そういう考えを持ちたいといった。
「童貞なんか捨てちゃえばいいじゃん。あほくさ」
「え?」
「案ずるより生むやすし、じゃないけどさ。あれこれ悩むより捨てる方が楽だってこと」
「でも、相手いないし」
「いるじゃん」
「どこに」
「目の前」
熟女が白い歯を見せて妖しく微笑んだ。
美由紀さんに誘惑されるような感じで、そのままホテルに直行した。
セックス経験が豊富で、平気でセフレやるような女性は、こんなにも軽くておおらかなのかと思った。セックスを全く特別なものと考えていなさそうだ。男女のコミュニケーションくらいにしか考えていない。それが信じられなかったし、刺激的でもあった。かくして俺は美由紀さんからセックスの手ほどきを受けることになった。
「もっとリラックスしなよ」
ベッドの上で固くなっている俺の横に、美由紀さんが横座りした。シャワーのあとで、バスタオルで体をまいただけ。美由紀さん、俺の股間に手をのばしてきた。
「ちょっと・・・美由紀さん」
「あらあら。立派じゃん」
美由紀さん、裸になって俺の下半身を口で愛撫しだした。俺、目を閉じた。最高に気持ちがいい。女性の口で愛されることがこんなに気持ちいいとは。本能に火がついた。そのまま美由紀さんを押したおし、馬乗りになって熟女の体をむさぼった。
気がついたら挿入していた。そして、気がついたら射精してた。
「中で出したのね・・・まあしゃあないか。童貞くんだから許そう。あ、ごめん。もう童貞じゃなかったわね。これで卒業だもんね」
「卒業か」
「なかなかよかったわよ。私からは教えることは何もないわ。あとは経験を重ねることね」
ホテルに入ってものの30分の出来事だった。それに、美由紀さんと知り合って24時間たっていない。
童貞はあっという間に消えた。くだらないことで悩んでいたもんだ。
「出会い系に行きなよ」
ブラジャーを胸につけながら美由紀さんがいった。
「童貞じゃなくなってもね、時間がたったら童貞に戻っちゃうわよ」
俺に新たな課題が生まれた。美由紀さんがいうように、出会い系で経験を積もうと思った。
「最近、活きいきしてきたな。何かいいことあったか?」
彼が最近、そう言ってきた。